マイナス金利とは何か?

お金

 

2016年1月29日の日銀金利政策決定会合で、マイナス金利の導入が決まったと報じられた時は衝撃的でした。日銀はここまでやるのかと驚きました。マイナス金利は日本では初めての政策なので全く馴染みがありませんし、それによって世の中がどのように変わっていくのかは専門家でも予想は難しいと思いますが、私なりの考えを述べたいと思います。

 

例えば、今市場金利は過去最低の水準で、これを書いている2016年4月28日の日本国債10年もの(個人向け国債ではない)の利回りは何とマイナス0.085%です。国債とは国の借金ですが、国債を10年間預けると年利0.085%の割合で損をします。買ったら損するものをわざわざ誰が買うんだ?と思われるかもしれませんが、今後更に金利が下がれば国債の価格は上昇するので、その期待感から買われているのです。誰が買ってくれるのかと言えば、日銀です。今のところは異次元緩和で日銀が増発した円で国債を買い進めています。

 

銀行の預金金利も下がっていますが、今のところマイナスにはなっていません。マイナスになるという事は、預金をしていて利息を取られるという状態ですから、もしマイナスになってしまったら皆さん銀行からお金を引き出すでしょう。銀行は金融の間接金融ですから(借りる人と貸す人を間接的に仲立ちしている)経済がうまく回らなくなります。ですから預金に対して利息が取られるという事にはならないと思います。

 

しかし日銀が採った施策は、銀行が日銀に預けている当座預金をマイナス0.1%にする事で、つまり、銀行が日銀にお金を預けるとマイナス0.1%の利息を取られてしまいます。今まではプラスの0.1%でした。例えば5千億円を日銀の当座預金に預けている銀行があったとして、年間5億円の利息収入があったものが、逆に5億円の利息負担が必要になるという事です。銀行にとってみれば、わざわざ融資をしなくても、日銀の当座預金に預けておけば0.1%で運用できたわけです。それが逆に年0.1%で利息を取られるようになったわけですから、これまで以上に融資や投資などの運用をしなければならなくなったのです。

 

マイナス金利を導入した理由は、日銀が異次元緩和で、「2年間で」、「マネタリーベースを2倍にし」、「物価を2%上げる」、という2年、2倍、2%という目標が果たせず、デフレから脱却できていないからです。そのため、更なる金融緩和、つまりマイナス金利に踏み切ったという事です。

 

異次元緩和によって毎月7兆円(年80兆円)の国債を日銀が買取り、そのお金が日銀の当座預金に振り込まれるまでは予定通りでした。ところが日銀の当座預金残高だけがどんどん増えていき、そこから融資となって市中にお金が出ていかなかったのです。それが融資として市場にお金が出ていけば、市中のお金の量が増えて、物価上昇への期待が高まって、賃金の上昇から物価上昇へと好循環が生まれたかもしれませんが、いかんせんその先の銀行からの融資が伸びません。業を煮やした日銀は、日銀の当座預金金利をマイナスにすれば、銀行も運用(融資、投資)を考えざるを得なくなり、当座預金からマネーが市中に出回るだろうと考えたのでしょう。

 

しかし、銀行が遊んでいたから融資が伸びなかったのかと言うとそれは違うと思います。融資が伸びない理由は、日本はROI(投下資本利益率)が低いからです。つまり、採算が合わない為に、金利がいくら安くても新しく設備をしないのです。商売がうまくいく確信が持てるのなら誰だってお金を借りてでも投資をします。

 

日本だとGDPも低いし商売が難しい。日本で設備投資するぐらいなら、成長率の高いタイやベトナムに工場を作ろうか?という事になります。これはいくらお金を刷っても金利を下げてもどうしようもならない根本的な問題です。金利が安いから借りる、というわけにはいかないのです。

 

マイナス金利でローン金利も下がっています。最近やたらテレビで住宅ローンの借換を煽っていますが、住宅ローン金利も固定金利選択型10年で1%を切っているような状態ですので、今がチャンスと言えるのかもしれません。実は欧州でもマイナス金利政策が採られていますが、デンマークなどは住宅ローンを借りると手数料がもらえるそうです。確かに住宅ローンを借りて、更に利息がもらえるなら、住宅ローンを借りて家を建てようという人も増えるかもしれません。日本でもそんな事になるのかどうかはわかりませんが、多分ならないだろうとは思います。

 

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金利が安いとお金が借りやすいか?

では、金利が安いと本当に借りやすいか?について考えてみます。

 

ここで、アメリカの経済学者であるフィッシャーという方が考えた、フィッシャー方程式という公式があります。

名目金利 − インフレ率 = 実質金利

例えば、中国の例で言いますと、ここ数年の間でインフレ率(消費者物価の前年に対する上昇率)が高かったのは2011年の5.4%です。その当時の中国人民銀行の政策金利はおよそ6.5%ですから、住宅ローン金利は8%であると仮定します。そうすると、

 

名目金利(8.0%) − インフレ率(6.5%) = 実質金利(1.5%)
となります。

 

つまり、何が言いたいのかというと、住宅ローンの金利負担は8.0%ですが、自分の買った家の価値も6.5%上昇したので、実質的な負担としては1.5%だった、という事です。

 

それと比較して、2011年の日本はどうだったかと言いますと、インフレ率は、−0.29%です。住宅ローンの金利を2.475%とします。その上で式に当てはめると、

 

名目金利(2.475%)− インフレ率(−0.29%) = 実質金利(2.765%) 
となって、名目金利は中国が8.0%であったとしても、実質金利は日本の方が高くなってしまっています。

 

上記のようになる原因は、ひとえにデフレ経済にあります。表面上の金利は例え2.475%でも、物価が下がる、つまり買った家の価値も下がるので、債務者の負担は重くなるのです。デフレ経済下で借金をすると厳しいのはこういうわけです。ですから、金利が安いとお金が借りやすいか?と言われると、そうとも限らないのです。

 

日本のバブル期は、住宅ローンの金利が同じく8%くらいでしたが、来年になったら土地が10%上がると見込まれていたりしたので、その様な状況でしたら借金してでも土地を買おうという気になるでしょう。

 

ところが、来年また土地が下がると見込まれる場合は、みんな様子見をします。買い物を急がなくなるのです。そうするとますます物価が下がり、物価が下がると企業の収益も減って、結果個人の所得も減ります(いわゆるデフレスパイラル)。

 

2016年に入り、マイナス金利が導入されて、住宅ローンの金利は更に下がっています。物価は、総務省が7月29日に発表した6月の全国消費者物価指数が前年同月比−0.5%です。仮に住宅ローン金利を0.8%としますと、

 

名目金利(0.800%) − インフレ率(−0.50%) =実質金利(1.300%)
となって、実質金利はかなり下がっていますから、今は市場金利と物価上昇率の観点からは、住宅ローンはかなり借りやすい水準にあると言って良いと思います。 将来物価が上がって来ると、益々実質金利は下がって楽になりますので、今後の物価上昇リスクを考えるなら、フラット35とかの完全固定金利を選択するのも一つの方法かと思います。

 

 

 

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